香港の旧暦新年の由来、風習などを現地レポーターの百瑯さんが解説します。
1)「年」って何?年越しの由来
「10,9,8....3、2、1!!」年越しと言えばカウントダウンでしょう。毎年香港では新暦の12月31日の夜にセントラルの蘭桂坊で翌年を迎えるイベントがあり、新年の初日である元旦をお祝いしますが、香港人にとっての新年はあくまでも旧暦の春節(中華文化圏では旧暦の新年初日を春節と呼んでいます。今年は2月18日)。また、正月初日から15日間を「過年(ゴーニン)」と言います。
さて、「年」って一体何でしょう?
そもそも「年」は伝説によると凶暴な怪獣で、盤古時代の寒い夜、下界に降臨して暴れたり人間や動物を殺したりしたそうなのです。ある年の旧暦12月31日の夜に、「年」はまた現れて暴れました。今まで「年」に怯えていた人々は、赤い服を着て竹を燃やしました。そうするとパチパチと大きな音にびっくりして、「年」が尻尾を巻いて逃げました。それ以来、「年」がくるたびに赤い服を着て爆竹を鳴らすことになりました。
香港では、爆竹を鳴らすことは禁止されていますが、新界(郊外)の村では、元旦をお祝いする上で、邪気を払って清める意味を含めて爆竹を鳴らす習慣がまだ残っているようです。
「十二生肖」(干支):
「ワンちゃん、お疲れ様でした」 06年の干支である犬様に別れを告げ、そして「お帰り!!デブちゃん」と07年の干支の猪様にご挨拶をしましょう。
中国の暦法では、年ごとに代表となる動物がいます。順番にネズミから猪まで12種類。ネズミは体が小さく動きが早くて一位になったことに対し、猪は、動きが鈍くて最後に回されたのかもしれません。という訳で今年は猪の出番。大役を務めることになる猪は、巡る新年の挨拶はもちろん、猪の商品も販売されるでしょう。
2)「過年」の準備
新年を迎える準備のために、買い物に行ったりすることを「辦年貨」と呼びます。
買い物の内容は「団年飯(大晦日の夜に家族全員揃ってご馳走を食べる習慣)」の食材とお菓子がメインになっています。それに新年の飾り、服装、靴などを加えると結構な出費です。でも幸いなことにこの時期は「出血バーゲン」をやっている店が多く、また職場からボーナスも貰えますし、皆が気持ちよく財布をホイホイ開けてしまうんです。
さて、大事な「団年飯」から始めましょう。
大晦日の「団年飯」は年末の締めで、一年家族皆無事に過ごせたことを感謝して、また良い年を迎える意味もあります。メニューもいつもの食事より豊富で贅沢です。鶏、魚、豚はもちろん、さらに縁起かつぎの料理も欠かせません。
定番料理は「発財好事」“ファーチョイホウシー”、(干し牡蠣と髪のような外見の髪菜を煮込んだ料理)。広東語の発音で、「発財」は儲かる、「好事」は良い事で、大歓迎の一品です、そして最後に「湯丸」(トンユン)と言う家族の円満を意味した食後のデザート(熱くて甘い汁の中に黒ゴマ、ピーナツペースト入りの白い団子)がつきます。
「団年飯」の食材の準備は当日朝、または数日前から始められます。市場やスーパーは買い物する人で溢れ、とても賑やかです。その日の鶏、魚の値段や売れ筋がその年の景気に反映されるので、テレビ局も夕方のニュースタイムで生中継するほど重要な行事なのです。
大晦日が終わり、年始になるとご挨拶回り「拝年」(バイニン)に入ります。初日なので、自分の両親や親戚の家に行くのが普通です。挨拶を交わしながら、軽食を取るケースが多いです。そこでまた欠かせないものいくつがあります。
「年ごとにうまくなっていくように」との意味をこめたお餅「年糕」(ニンゴウ)があります。ちょっと赤っぽいのと白いココナツの甘い味をした種類があって、一枚一枚にカットして溶き卵をつけて炒めたり、そのまま蒸したりして食べます。日本のお餅みたいにふわふわで、食感が良い御節料理の一品です。
それと、お客様用に「全箱」というお菓子用に仕切ってある華やかな容器があります。その中に瓜の種、蓮子、キャンディー、チョコレートなど一杯入れておきます。そして「全箱」の上にミカンを載せます、広東語でミカンの発音は“カム”でお金を意味するのです。
当然、手ぶらではまずいですので、贈り物を買います!!上環あたりにある海の幸の店もこういう時期になったら大繁盛!!椎茸、帆立、干し牡蠣、あわびなどの海鮮を「海味」と呼びます。「団年飯」の食材に使う他、年始挨拶の贈り物にも使うのです。
その他、スーパーやコンビニなどでも長蛇の列が。お土産に使うキャンディー、クッキー、チョコ、そしてお菓子を買う人が多いからです。面白いことに、贈り物は皆おめでたい色を象徴した赤い紙で包んでありますから、もらった物の中身が良くわからないままにさらに他人にあげてしまうケースが多く、その後お土産のことを聞かれて、知った振りをしてごまかして大笑い!!なんてことも!
新年ですので、新しいイメージで良い一年をスタートしようという人には服や靴も欠かせないですね。特に“靴”。広東語の発音で、靴のことを“ハーイ”と呼び、溜息をつくみたいな発音ですから、新年早々、溜息をつくことがないように靴は新年の前に買っておくという意味もあるのです。それに美容院に行って散髪してフレッシュな気分で新年を迎える人も多いです。だから、この時期に限って床屋やヘアーサロンは値段がいつもより高いことがあるんです。
もうひとつ、忘れてはいけないのは、「揮春」(ファイチョウン)。四角や長い形の赤い紙に金色の文字で「龍馬精神」(家族の皆が元気であるように)、「財源広進」(お金が一杯入るように)、「福」の逆さま文字(福が来た)など、縁起のいい言葉が書かれた紙のお正月飾りをドアや玄関などに張りつけます。今年の干支は猪だから、猪と関わった言葉が流行でしょう。最近はアニメキャラクターの「揮春」、Hello Kitty、ウルトラマンなどのデザインもあります。
食材、OK!お土産、OK! 靴もOK!! さーて、次は何でしょう?そうだ、正解!!軍資金、お~か~ねです。
大晦日の夜に親が子供の枕の下にお年玉を入れておく習慣があって、そのお金のことを「圧歳銭」と呼びます。要は凶暴な怪獣「年」から、子供を守るのです。
「利是」(ライシー)お年玉は、古い札を入れるとちょっと失礼ですし、もらった人も気持ちが良くないものです。その為、新年が近づくと、銀行が開店する前から既に長蛇の列ができ、お爺さんやお婆さんが並んで新札を両替します。香港では日本と違って、結婚した者が子供や独身の人、マンションのガードマン、会社の部下、お世話になった店のスタッフにあげるのが一般的。その金額は、その人との関係にもよりますが、相場は10~20ドル程度です。初対面の人や、それほど親しくない人には10ドルです。だから、たいていの人は異なった模様のお年玉袋の中に利是の金額を分けて持ち歩いています。
面白いことに、殆どの人は札だけを使い、コインの使うのを避けます。何故ならば、それは金額が少ないと思われたくないですから。一袋あたりの金額は少なくとも、渡す人数が多いので手痛い出費です。お年玉だけで数万ドルの出費になることもあるのです。
3)「行花市」(ハンファシ)
香港では、大晦日の「団年飯」の後に、家族や友達と一緒に花市に行って花を買う習慣があります。最大の花市は香港島銅羅湾にあるビクトリアパーク。ここは広い公園の敷地いっぱいに、花屋さんと同じくらい食べ物屋や雑貨店がたくさん並び、お祭りの雰囲気で盛り上がります。
花市が開催される数ヶ月前に、店のオークションがあり、場所が良くて面積が広い店は場所代が何と20万ドル以上もします!!その年の景気も花の売れ筋に反映されます。毎年、香港特別行政区の長官も夜ここに来て花を買う習慣があり、テレビでも中継されます。九龍半島側では、太子(Prince Edward)の花市も活気にあふれています。
花の種類は、水仙(運勢の上昇)、桃の花(異性運がバッチリ)、お正月に咲くと縁起が良いと言われるグラジオラス、そして金桔.牡丹(お金が儲かって幸せが来る)など。金桔の飾り方は、利是袋を沢山ぶら下げて、縁起が良い言葉が書かれた小さな「揮春」を貼り付けます。
最近ではDNA遺伝子排列組み換えのような新型のレモンが登場し、それも縁起良くおめでたいらしいです。
雑貨は、12干支の縁起物、インフレータブルの玩具、話題となった飾り物など見所が多く魅力的です。そのため、街中でお花や、インフレータブルの面白い玩具を抱えている人々を見かけます。
また、大晦日はMTRやバスも徹夜で動きます。
4)年末のお願い 上頭柱香
年末の大晦日の昼から寺院、廟の外では数多くの人々が行列して、夜12時まで開門を待ちます。夜12時過ぎ、年が明けた瞬間、先頭に立った信者達は門から本壇まで100メートルを猛ダッシュして「大砲香(物凄い太い線香)」3本を香炉に立てて来年は良い年であるように祈る習慣があります。テレビ局にも恒例の行事として報道されます。
それと、初日に沙田大圍にある「車公廟」に行って「風車」を(ぐるぐる回して運勢を上昇)買い、良い一年であるように参拝する人が多く、もちろん黄大仙、大仏などのお寺も香火繁盛です。
実は、お寺参拝以外に初日に「拝年」に出かける人はもちろん、街中で親戚や友達と会ったら“新年快楽”(サンリンファイロッ)ではなく(これは香港の新暦のご挨拶)旧暦には“恭喜発財!”(コンヘイファッチョイ)、それから“身体健康”(サンタイギンホン)を言うのが普通でちゃんと使いわけされています。香港人の金銭観念がよく判りますね。
5)新年のキャラクター「財神」、「獅子ダンス」
香港人は金銭感覚が鋭く“財”という文字に敏感で特別な感情を持っています。新年早々、儲かりたいことを「発新年財」と呼びます。馬券やマークシックス(香港の宝くじ)を買ったり、友達とトランプやマージャンをやったりするのが新年の定番エンターテインメントです。そこで金銭を代表とする神様はそのまま「財神」と呼びます。新年の前に家を綺麗に掃除しておくのは、やはり「財神」の降臨を待ちうける理由があります。
新年には街中、ショッピングモールやレストランなどで財神の格好をした人が、利是を配る光景をよく見かけます。財神から利是を貰ったら、一年の金銭運が良くなるでしょう。勿論利是の中身は赤い紙一枚しかありませんが、本物の札より貴重かもしれないのですね。
「トン、トン、、、チャン、チャン、チャン」と遠くからタンバリンと太鼓の音がどんどん近付いてきます。それは、新年を盛り上げる為、ショッピングモールや、公園で民間の武術団体や青年団が行う、旧正名物の獅子舞とドラゴンダンスです。色々なパターンと技を見せ、たくさん人々の視線を集め驚かせます。
6)世界規模のビッグイベント 年初一のパレード
香港では、旧正月をお祝いする世界規模のビッグイベント「賀歳花車巡遊」が、18日、年初一の夜8時に開催されます。ホンコンローカルチームを含めて世界中からさまざまな国から、トータルで13チームがパレードに参加します。さらに、アトラクションを披露するチームは何と27もあります!!鮮やかなライトとバックグラウンドミュージックが加わり、香港人や多くの観光客を魅了します。
今年のルートは尖沙咀文化中心の広場からスタート、広東道に沿って九龍公園方面へ行ってから、戻ります。テレビ局も生中継も予定されています。
新年の禁忌及び習慣
I) 旧暦の新年、特に香港にはいくつもの禁忌や迷信があります。例えば、元旦には精進料理を食べること。初日くらいは殺生をしないようお肉を食べません。(最近は禁忌や迷信を気にしない人もいます)
II) 旧正月の三日目は「赤口」と呼ばれ、喧嘩をしやすいため、外出や年始ご挨拶回りを避けます。
III) 御節料理は、揚げ物、年糕、油っぽい物を頻繁に食べるので、気分転換にお粥を食べたいと言う人がいます。けど、お粥は貧乏なイメージが付き纏うため避けます。
IV) 旧正の3日前、一年の厄を全部掃き出すために家を大掃除する習慣があります。年始の掃除は幸運を流したり、大事な財神を追い出したりするのでよくないため、年末のうちに済まさなければなりません。
V) “靴”は広東語の発音で、“ハーイ”と呼びます。溜息をつくみたいな発音ですね。新年早々、溜息をつくことがないように、靴を買うなら、新年の前に買っておきましょう。
VI) 香港で新年を代表するおめでたい色は、赤、金です。黒、白はお葬式っぽいイメージが強いので、服装や身の周り物は黒白を避けてなるべく赤、金を使います。こういった時期は赤い下着を着る女性が多く、下着の専門店も新春限定の物を発売することもあります。
VII) 旧正月にもうひとつの目玉行事に正月恒例の2日目の花火大会があります。毎年、香港島と九龍半島を隔てているビクトリアハーバーで開催されます、当日午後から湾仔、ビクトリアピーク、それから尖沙咀あたりで早い時間から良いポジションを陣取りたいカメラマンや、見物客が一杯殺到し、その数は30万人ほどに達します。
VIII) 旧正の5日目の「年初五」になると、賑やかな雰囲気もこのあたりまで。溜まっているゴミを捨て、掃除します。商売の人は財神に線香を供えて今年も宜しくお願いしますと心を込めて感謝します。
IX) 6日目は 「啟 市」(カイシ)と呼びます。この日はほとんどの店が営業し、会社も仕事が始まります。最近は商売のために1日目から営業する店が増えましたが、風習的にはこの日から。ですので昔ながらの下町の店などはこの日まで休業するところが多いのです。
そろそろ正月も終わり、とはいえ、まだ旧正の雰囲気が濃く、“恭喜発財”と挨拶を交し合ったり利是を配ったり一緒に食事したりするのが特徴です。
X) 7日目は「人日」(ヤンヤッ)、すなわち全人類の誕生日です。それは古典の《占 書》の記載により、神様は、初日に鶏、2日目に犬、3日目に豚、4日目に羊、5日目に牛、6日目に馬、7日目に人、そして8日目に穀物という順番で万物を作ります。その日は、「及第粥」 (鶏ガラ、豚ひき肉、豚レバー、鯛のアラ、ねぎとしょうが)を食べます。良い結果や成績が出るようにと願う、縁起の良い食べ物です。
最近では利是配り、年始挨拶回りなど正月の行事そのものの煩わしさを嫌っている人々が結構います。それを避けてその期間は外国へ旅行する人も年々増えています。でも、離れて住む家族などは家族団欒の良い機会ですよね。一年に一度しかない旧暦の新年を今年もたっぶりと味わいましょう。
以上、香港ナビがお届けしました。
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記事登録日:2007-02-14