7億香港ドル(約105億円)をかけたアジア最大規模の唐代建築群。マニアックな観光名所を探しているならおすすめ。
ネイホウ!! 香港ナビです。今回ご紹介するのは、志蓮淨苑(Chi Lin Nunnery)。MTR觀塘(Kwun Tong)線鑽石山(Diamond Hill)駅から徒歩10分ほどの所にある、仏教のお寺です。鑽石山志蓮道に位置し,総面積は約三萬三千平方メートル、唐代の木造建築をモチーフに作られています。周辺の斧山公園と南蓮園池を含めると、アジア最大規模の唐代建築群となり、香港で最も特色がある建築物であると共に、隠れた観光名所の一つです。
志蓮淨苑とは仏教に属した非営利団体です。1930年代に設立、社会貢献を基本理念とし積極的に教育や福祉に関連する事業を行ってきました。現在は老人ホーム、仏教志蓮小学、仏教志蓮中学、志蓮淨苑文化部、志蓮淨苑夜間学校、そして志蓮淨苑図書館などの福祉・教育施設を運営しています。
志蓮淨苑の教育理念
志蓮淨苑では文化部、図書館そして夜間学校を設置し、市民に中国文化、特に仏教文化を教えています。
1 文化部
定期的に仏経の解説や仏教学の講座を行っています。仏教学に興味を持つ人なら誰でも参加できます。
2 図書館
面積は約一万平方フィート、蔵書数は約七万五千冊、仏教学、哲学、仏教建築デザインなどの本を所蔵しています。館内には70席の読書席があり、静かな環境で仏経の古典を読むことができます。図書カードを作れば、普通の図書館と同じように本を借りることもできます。
3 夜間学校
仏経の解読や、哲学の研究、そして古典文学の紹介などの講座を豊富に用意しています。自分の興味や時間に合わせて、学ぶことができます。
志蓮淨苑の歩み
1934年に葦庵法師と覺一法師により、藍昌源などの居士達の協力で、仏教女衆十方叢林という僧侶の修業場所を作ったことが始まりです。その頃、中国内戦の影響で大量の中国人難民が香港に流れてきました。黄大仙、鑽石山周辺に住みついた彼らの生活は非常に貧しく、この地区での社会福祉の早急な対策が必要となりました。この状況を受け、志蓮淨苑では1948年に、貧しい家庭の子供達を対象に無料教育を開始し、1957年には孤児院と老人ホームを新たに開設しました。
1980年代、香港政府は大老山トンネルを作るため、志蓮淨苑と周辺の木造家屋群を壊すことに決定しました。しかしながら、各界の有名人や熱心な信者たちの支援により、市街中心部に志蓮淨苑を再建する計画が政府によって可決され、志蓮淨苑は新たに新しい場所に移り、活動を継続することができるようになりました。1989年から、まずは老人ホーム、志蓮センター、そしてお寺、学校、蓮苑の建物部分などを次々と再建し、2000年5月18日にすべての工事が終了しました。
殿堂(本堂)
志蓮淨苑の殿堂(本堂)は中国唐代の伝統木造建築を模して建設され,すべて天然の建築材料が使われています。殿堂は,釘を使わない伝統的な建築技法が用いられ、その姿は非常美しく、自然の中に溶け込んでいるようです。殿堂に鎮座する仏像と菩薩像は仏経の通り再現され,唐代の様式を用いて作られました。美しく立派な姿です。
殿堂には東、西、南の方向に「東門」、「西門」、「山門」の3つの大きな門があります。この配置法は、「三進一院」と呼ばれます。
第一進
山門 、蓮池、長廊、天王殿、鐘樓、鼓樓
第二進
大雄殿、客堂、藥師殿、祖堂、觀音殿、臥佛殿、淨土經變圖
第三進
葦公記念堂、五觀堂、法堂、藏經樓、方丈室、念佛堂
一院
萬佛塔
7億香港ドルをかけた観光スポット?
再建費用、総額七億香港ドル(105億円!)の志蓮淨苑。実は、技術面や耐久性、資材費を考えると、七億香港ドルという金額は決して高くなく、むしろ安いくらいだそうです。志蓮淨苑は全て木造建築なので,木を繋ぎ合せるパーツが全部で八万個以上も使われています。まったく釘を使わずに、すべて人の手で作られ、その労力と費用を計算すると,実際にかかった建築費用は天文学的な数字になってしまうそうです。どうして、それが七億香港ドルで完成できたかというと、実は再建に参加した建築士や技術者は、全員ボランティアなのです。
木造建築はご存じのように、非常に耐久性に優れています。中国山西省にある唐代の建築物や、奈良時代に作られた日本の寺院は、千二百年経た現在も、その姿を保っています。そう考えると、この七億香港ドルかけて作られた志蓮淨苑も、千年以上使用できることを考えれば安いのかもしれませんね。
門前には、いくつもの注意書きが掛けられています。おもしろいくらいに、すべてのプレートは、「勿(禁止)」という字から始まっています。例えば、「勿塗污刻字」(落書き禁止)、「勿亂貼廣告」(広告チラシ貼り禁止)、「勿亂跑遊戲」(走ったり、遊ぶことは禁止)、「勿踐踏草地」(芝生立ち入り禁止)などなど。
志蓮淨苑の存在はヨーロッパの美しい教会や京都の寺院に似ていますが,ディズーニーランドのような遊びで訪れる場所ではありません。教会や寺院のように厳かな場所に入る時に足音を立てず、静かに参観するよう心がけることは非常に大切なことですね。
精魂込めた大作、まさに神業
志蓮淨苑の素晴らしさは一体何かというと?それは唐代の木造建築技術の再現,歴史、文化、建築、芸術そして宗教の融合です。志蓮淨苑には、盛唐敦煌莫高窟第172窟北壁に描かれた、「觀無量壽経変」が取り入れられ、古代叢林 「七堂伽南」を上手く取り込み、20棟以上の鮮やかで独特の形をした建物を広い廊下で繋いでいます。さらに風水上の山の流れ、地勢に合わせて全体の木造建築群を配置しています。太極のように、陰陽のバランスがよく取れており、風水的にもよく考えられて設計されています。
庭園は唐代の造園技術を参考に、簡素に造られているように見えます。が、実は池、花、木、石すべては計算し尽くされ、全体の建物群と共に美しい自然のハーモニーを作り出しています。園内の木で一番古いものは、千年を超え、植えられている植物も珍しい種類のものが多くあります。池の水面に浮かぶ睡蓮もカラフルで珍しい品種ばかりです。
南蓮園池
志蓮淨苑の向かい側に、同じく典型的な唐代の設計技術で造られた、南蓮園池という公園があります。香港政府が造り、志蓮淨苑が管理しています。一般的な公園とは一味違う穏やかな空気が溢れています。時間があればこちらにも訪れてみてください。
いかがでしたか?黄大仙など完全に観光地化されてしまった寺とは違い、厳かな空気が漂っている志蓮淨苑。まだ建てられてから10年ほどのため、歴史的な深みや味わいはまだまで出ていませんが、21世紀まで受け継がれた唐代の建築・造園技術をその目で確かめてみませんか?以上、香港ナビがお伝えしました。