航海や漁業の守護神として信仰を集める媽祖や土地の神を祀る、九龍サイドでは最大規模の廟。近くにはナイトマーケットやヒスイ市場など見所がたくさん。
こんにちは。香港ナビです。
尖沙咀と旺角という2大観光エリアに挟まれて、いまひとつ地味なイメージのある油麻地エリア。でも実はこのエリアには、ジェード・マーケット(ヒスイ市場)や歴史的建造物のひとつである油麻地警察のほか、香港を代表するナイトマーケットの男人街(テンプルストリート)などがあるんですよ。
ところでこのテンプルストリート、中国名を廟街といいますが、この街路名の元となったお寺があることをご存知ですか?それが今回ご紹介するティンハウ廟です。
ティンハウって何?
まずティンハウ廟をご紹介する前に、そもそもティンハウとは何なのかを簡単に説明しますね。
■□■ ティンハウとは ■□■
ティンハウは漢字では天后と書きますが、宋の時代に中国・福建省に実在した巫女だと言われています。元々の名前を林黙娘と言い、生まれたときからほとんど泣かなかったことから、無口な女の子を意味する「黙娘」と名づけられました。
彼女は小さい頃から特殊な能力を持ち、16歳の頃に神通力を得て村人の病を治すなどの奇跡を起こしたほか、天気を予測する能力を持ち、多くの漁民を海の事故から助け、海上の安全を守ってきました。28歳の時に父親が海で遭難し、その後は彼女がその悲しみのために旅に出て、その旅先で仙人に誘われて神様になったという説や、父を探しに行って遭難したなどの説がありますが、この黙娘が神となって媽祖となりました。
当時、媽祖は地元の郷土神に過ぎませんでしたが、宋、元、明と海の交易が盛んになるにつれて「海の守り神」としての性格を強め、歴代王朝から冊封されることで天后の位を獲得しました。媽祖は主に福建省や広東省の華僑に信仰されたため、彼らの渡海とともに世界中に広がり、現在では世界中に4000とも5000とも言われる天后廟があると言われています。
油麻地のティンハウ廟が周辺の水上生活者によって建てられたのは1865年のこと。当時はほんの小さな廟にすぎず、今の位置からは少しずれた場所にありました。ちなみに、廟の前の土地に漁船に使われる纜(ともづな)と桐油を売る店が多く存在したことから、この周辺が油麻地と呼ばれるようになった、という説もあります。
その後、1874年に風災でこの廟が壊れ、現在の場所に新しく造られたのが1890年のこと。それ以降、この廟を挟んで北側を「廟北街」、南側が「廟南街」と名付けられ、この二本の道が合わさったのが現在の廟街(テンプルストリート)です。このように、ティンハウ廟は油麻地の歴史とは切っても切り離せない存在なのです。
現在ではティンハウ廟は、天后古廟を中心として観音楼社壇、観音古廟、城隍廟そして書院と、全部で5つの廟を持つ九龍エリア最大の廟となっています。
では、早速中に入ってみましょう。
■□■ 天后古廟 ■□■
正面に構えているのが、主に媽祖を祀る天后古廟です。入り口の両脇でこの廟を守っている獅子像は1860年に造られたそうで、150年以上経った今でもその原型をとどめています。
廟の中は小さな庭を囲むようなつくりになっており、この庭には大きなお線香がたくさん吊るされています。このお線香は人々の願いが込められて神様に奉納されたもので、燃え尽きると願いが叶うと言われています。ちなみにこの巨大なお線香が燃え尽きるまでには1週間ほどかかるとか。旅行者でも奉納することができますので、願いがある人は購入してみるのもいいかもしれません(赤:180ドル、黄:160ドル。料金は2013年10月現在)。
そしてこの庭の奥、正面に鎮座しているのが媽祖です。穏やかな表情をした女性の神様で、お願いをする多くの地元の人がたくさん押しかけています。またその両側にも別の神様が祀られています。
■□■ 書院 ■□■天后古廟を正面に見て、いちばん右にあるのが書院です。書院は唐の時代には役所に付属した書庫、書籍編纂(へんさん)所を指していましたが、宋の時代にはそれが転じて私立学校を意味するようになった場所です。
残念ながら訪れたときは閉まっており、普段でもあまり開かれることはないようです。
■□■ 観音楼社壇 ■□■続いてその左横にあるのが観音楼社壇。社壇とは、土地神様をお祀りする場所のことです。中には福徳正神を祀った福徳祠などの土地神様と観音様が祀ってあります。
この中にある銅鑼は1800年代後半に鋳造されたもので、自由に叩くことができますが、その場合は銅鑼の下に置いてあるお布施箱に心づけを入れてくださいね。
■□■ 城隍廟 ■□■城隍神は都市とその住民を護る神様です。この神様を祀る城隍廟が天后古廟すぐ左にあります。このティンハウ廟には女性の神様が多いのですが、城隍神はここでは珍しく男性の神様です。
■□■ 観音古廟 ■□■さて、ティンハウ廟最後の廟は観音古廟で、ここでも観音様と土地神様を祀っています。正面左には、女性と赤ちゃんを護る神様である金花奶娘も祀られており、ほかの廟と比べて柔らかい空気が漂っているような気がします。
駆け足でそれぞれの廟を紹介しましたが、ここの見所はこれだけではありません。細部に施された彫刻の素晴らしさもぜひ見逃さないようにしてください。
屋根の上にある緻密な彫刻。
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屋根のすぐ下もこのとおり。
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廟以外の敷地内の紹介
1920年代に造られたというティンハウ廟前の敷地は、九龍サイドの目抜き通り・ネイザンロードのすぐ裏だとは思えない静けさがあります。こののどかな雰囲気を作り出しているのが、この敷地を覆いつくしているガジュマルの木々。中には樹齢100年を超えるものもあるとか。そのおかげで夏場でも比較的涼しく、ベンチや中国式将棋の盤が掘られた石造りのテーブルもあることから地元の人、特に古くからこのエリアに住む老人たちの憩いの場として親しまれています。
また香港の公園では珍しくタバコも吸えます。
周辺施設の紹介
最初にもお話したとおり、このティンハウ廟の周辺には観光スポットがいくつかありますので、あわせて紹介しましょう。
■□■ 眾坊街児童遊楽場及休憩花園 ■□■
ティンハウ廟のすぐ裏にある公園。何の変哲もない小さな公園ですが、壁一面に彫られた龍の彫刻は一見の価値あり。休憩ついでに、ぜひ見てみてくださいね。
■□■ 廟街(テンプルストリート/男人街) ■□■
香港に来たら一度は訪れたい観光スポット。夕方頃から出てくる屋台では、ちょっとした小物からお土産品、電気製品など、いろいろなものが売られています。またティンハウ廟近くは占いストリートとなっており、手相や人相、タロット占い、四柱推命、小鳥占いなどの店が並びます。日本語OKの占い師さんもいるので、興味のある人はぜひ。
■□■ ジェード・マーケット ■□■高価なヒスイから、ばら撒き用のチープなストーンアクセサリーまで何でもそろっています。あまり高いものを買うのはおすすめしませんが、ちょっとしたお土産を買いたいなら冷やかしついでに訪れてみる価値あり。
■□■ 油麻地警察 ■□■1922年に建てられた、三級歴史建築物。今でも映画やテレビの撮影でよく使われているので、運がよければ撮影現場に遭遇できる…かも!?
■□■ 上海街 ■□■
キッチン用具の問屋が並ぶ通り。業務用の調理道具のほか、自分用にもお土産用にも使えそうな食器や小物、蒸篭(せいろ)など、見るだけでも面白いですよ。
■□■ 美都餐室 ■□■油麻地散策に疲れたら、ノスタルジーあふれるこのカフェへ。映画や雑誌、テレビなどでもおなじみのロケ地で、おすすめはティンハウ廟が見下ろせる2階の窓側席。階段横にある、歴史を感じさせるレジもお見逃しなく
古さを残す果物市場。
かつてのポルノ映画館も、今では広東オペラメインのミニシアターに変身。
このほかにも油麻地映画館、昔からのたたずまいを残す果物市場など下町ならではの見所がたくさん。ティンハウ廟のついでに、ぜひ散策してみてくださいね。
以上、香港ナビがお伝えしました。